Fw:バガボンドとわもん4/一念無想《ナカジ》

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「何度、一(ひとつ)の太刀を打たせるのか
この男は……」

当時、京で最強といわれた吉岡清十郎。

かたや、
まったくの自己流で実戦に生きる
「山猿同然」の武蔵。

二人の戦いにおいて
清十郎は予想外の苦戦を強いられます。

一振りで完全に仕留めるはずだった武蔵は、
しかし紙一重で清十郎の切っ先をかわします。

そればかりか、剣を交えるほどに
武蔵の全身の感覚は冴えわたり……

しまいには、
口角からよだれが垂れていることにさえ気づかないほど
集中しきった状態に達しました。

「清十郎の一の太刀に、後の先を合わせる」

そのためだけの体と化した武蔵の前で……

ほんの一刹那、ある思いにとらわれた清十郎。

その瞬間、
清十郎の振り上げた剣がその手から抜け飛びました。

同時に、身体パフォーマンスが最高潮に達した武蔵の剣は
京で最強の男の胴体を真っ二つにします。

まさかの結末。

そのとき、清十郎の脳裏をよぎったものは……

愛する弟、伝七郎であり
かわいい門弟たちの顔。

吉岡道場の長男であり後継者という境遇が
清十郎に重くのしかかり……

皮肉にも自身の命を奪う結果となりました。

総合的な剣の腕は
この時点でまだ清十郎がわずかに上回っていた印象があります。

それにもかかわらず武蔵を倒せなかった清十郎。

勝敗を分けたのは、思いのありようでした。

一念無想に徹しきることで
武蔵はこの一戦を制したのです。

《ナカジ》

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