【LAST HOPE 伝説〜Woo バイブレーションのキセキ〜】文・田村いくこ

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【LAST HOPE伝説〜Woo バイブレーションのキセキ〜】文・田村いくこ

《覚醒》

ヤブハラヒデキは島国の中の島国アワノクニと呼ばれるところに生を受けた。

時はヤブハラ少年9歳の晴天のある日。

その日小学校では抜けるような青空の下、年に1度のドッジボール大会が行われていた。

ヤブハラ少年は2歳の時の交通事故が原因で足を悪くし、走るのは不得意だったが、球技なら自信があった。

なんせそのころから意識スピードが速く、瞬発力にかけてはクラスで右に出る者はいなかったからだ。

「よーし!いいところを見せて今日こそヒーローになってやろう!」

ヤブハラ少年はいつにもまして張り切っていた。
それは朝からなんとなく「今日は人生最良の日になるに違いない」という予感があったからだ。

ヤブハラ少年は、敵の攻撃の時はすばしっこく逃げまわり、ジャンプしてはボールをよけた。

そして甘いボールがきたらすかさず、果敢にボールをキャッチしては、次々に敵にボールをぶつけていく。

ヤブハラ少年のおかげで、クラスは順調に勝ち上がっていった。

そして優勝争いの決勝戦。

そのゲームもヤブハラ少年の頭脳プレーがさえわたり、「絶対勝つ!」というヤブハラ少年のメンタルの強さにクラス全員が影響されて、圧倒的優勢を保っていた。

そして、敵陣にはあと一人。

その一人さえ倒せば優勝。

その千載一遇のチャンスに外野の仲間がこれがトドメだとばかりに勢い勇んでボールを投げた!

ところがあまりのチャンスに力みすぎてしまったのだろう、ボールは手からすべり、ゆっくりと青空に円を描いた。

気がついたらボールはなんとヤブハラ少年の両腕にすっぽり収まっていた。

なんという引きの強さ!

ヤブハラ少年は心の中で神様に感謝した。

このチャンスをつかむとクラスのヒーローになれる!

ヤブハラ少年は敵の足元に狙いを定め、大きく振りかぶった。

それを周りの誰もが固唾を呑んで見守っていた。

突然周りの情景がスローモーションになる。

「みんな僕を見てる。僕に注目してる。」

周りの人達の様子も手に取るようによく見えるぐらい余裕だった。

その時である。

ソレは突然やってきた。

突然周りの景色や大声で叫ぶ歓声、何もかもが止まってしまった。

時間が止まってしまったようだった。

ヤブハラ少年はボールを持ったまま、犬が匂いを嗅ぎつけた時のように顔を左右に振って微かなソレをキャッチした。

「ん?僕は何かをするためにこの地球にやってきた!!」

言葉にすると、このような長い表現になってしまうのだが、その一瞬の閃きが、刹那にヤブハラ少年を打ち抜いたのだ。

いわゆる啓示だった。

次の瞬間、時計が動いたときには、ヤブハラ少年はボールを取りこぼしてしまい、そこから一歩も動けなくなってしまった。

もはやドッジボールの勝ち負けは、どうでもよくなっていた。

「僕は確かに何かをするためにここにやってきた。勝負は35歳からだ。」

なんの根拠もなくそう思った。

ヤブハラ少年はソレがどこからきたのかは全くわからなかったが、そんなことはどうでもよかった。

ただその直感を信じた。

ヤブハラ少年にとってソレは、目で見るより、耳で聞くより明らかだったのだ。

だから今ドッジボールなんかにエネルギーを使うべきではないのだ。

35歳まではエネルギーを温存しておかなければ。

ヤブハラヒデキ齢弱冠9歳。

世に伝わるヤブハラ覚醒の瞬間だった。

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