福島原発事故 収束作業を指揮「現場 撤退できぬと覚悟」 吉田前所長 当時の心情語る《平成24年7 月25日 信濃毎日新聞 朝刊》

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平成24年7月25日 長野信濃毎日新聞 朝刊

福島原発事故 収束作業を指揮
「現場 撤退できぬと覚悟」
吉田前所長 当時の心情語る

東京電力福島第1原発事故で収束作業の陣頭指揮を執り、食道がん療養のため昨年12
月に退任した吉田昌郎前所長(57)が、復興をテーマに福島市で来月開かれる出版
社主催のシンポジウムに、ビデオ出演することが24日分かった。

約30分にわたるビデオ映像で、吉田氏は危険を顧みず行動する部下たちを「地獄の
中の菩薩」に例えて感謝する気持ちを表現。また、「原子炉の冷却作業をする人間
は撤退できない」と語り、死を覚悟していたことなどを生々しく明かしている。

吉田氏が事故直後の現場指揮官としての心情を一般に向けて詳しく語るのは初め
て。

吉田氏は昨年3月に原子炉建屋の水素爆発が起きた後、部下たちが「現場に飛び込ん
で行ってくれた」と語る。その上で「私が昔から読んでいる法華経の中に登場す
る、地面から湧いて出る菩薩のイメージを、すさまじい地獄みたいな状態の中で感
じた」と、部下の後ろ姿に手を合わせて感謝していたという。

政府事故調などで、東電の全面撤退問題が議論になっているが「基本的に私が考え
ていたのは発電所をどうやって安定化させるかということ。現場で原子炉を冷却す
る作業をしている人間はもう撤退できないと思っていた。本店にも撤退ということ
は一言も言っていない」と言い切った。

昨年3月14日の3号機の水素爆発時は、がれきが飛んでくるなど「(指揮を執ってい
た)免震重要棟の人間は死んだっておかしくない状態だった」といい、「これから
もう破滅的に何かが起こっていくんじゃないか」と恐怖を感じたという。

シンポジウムは8月11日に開かれる。吉田氏が療養中のため今月10日に都内のホテル
でビデオを収録。原発の事故処理を指揮する東電幹部のメンタルケアをし、吉田氏
と親交のある人材コンサルタント薮原秀樹氏と対談する形で行われた。シンポの主
催は、薮原氏の著書を出版したことがある上高井郡小布施町の出版社「文屋」(木
下豊社長)。

ビデオ映像には英語訳のテロップも添えられ、薮原氏による「聞くことで支える
『福島完全安全宣言』」と題した講演の後上映される。

(写真キャプション)
福島第1原発の事故直後の現場指揮官としての心情を語る吉田昌郎前所長(ビデオ映
像から)=10日、東京都内のホテル(文屋提供)

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