バガボンドとわもん5/エンドポイント
武蔵に決闘を挑んだ吉岡伝七郎でしたが、
その力の差はすでに歴然としていました。
にもかかわらず、
伝七郎はもう引き下がれません。
吉岡道場の名にかけても、
武蔵との闘いに散った兄・清十郎の仇をうつためにも、
自身のプライドを保つためにも……。
対決の場に臨んで、まるで気のない武蔵。
対する伝七郎は、
得意の上段に構えてみたり、
場を威圧する大声をあげてみたり、
虚しいポーズをとりながら、
負けを認めざるをえない状況へ追い込まれていきます。
「武蔵は遥か先へ行ってしまった。
もう、その差が縮まることはない」
そう悟った伝七郎は
死を覚悟し、気持ちを切り替えます。
武蔵に勝って、「その先」へ行こうとしていた。
しかし今からは、武蔵の命を奪うためだけに闘う。
かつては自分を強く見せるために父の名を口にした。
しかし今は、父の名を守るために闘う。
そう決意した伝七郎が……
自分の間合を捨て
武蔵の間合へ踏み入るや否や……
武蔵はその片腕を斬り落とし……
さらには伝七郎の脇差を取って腹を裂き……
またたく間に決闘は終わりました。
京で随一といわれた吉岡道場。
創始者の血を引く者の、あまりにもあっけない敗北。
けれども伝七郎は
満たされた気持ちで生を閉じたのではないでしょうか。
「誰のため、何のため」
そのとき伝七郎が見据えたエンドポイントは……
尊敬してやまない父・吉岡拳法と、兄・清十郎のために、
そして家族同然に愛する弟子たちと、吉岡道場のために
あったと思うのです。
父、吉岡拳法が愛し、
だからこそ後継者に選ばなかった、伝七郎の鈍臭さ。
「勝負」としては無様な最期。
しかし、自我への執着から放たれたそのとき、
伝七郎の魂は、最高に輝いたように見えました。
《ナカジ》